臨床研修プログラム

救急研修を語る

特別インタビュー 救急研修を語る

廣田部長

 話し手は、砺波総合病院で救急・集中治療室の研修責任者である廣田副院長です。
 長年の豊富な麻酔、救急医療、集中治療の経験に加えて災害医療にも真摯に取り組んでいます。 また、当院への赴任以前には初期研修プログラム責任者として多くの医学生や研修医の指導経験があります。

——廣田先生は砺波総合病院で集中治療・救急の仕事に従事されていますが、 これまでどのような道のりを歩んでこられたのでしょうか?

 金沢大学を卒業して麻酔科に入局しました。その頃から救急や重症患者さんの医療に強い関心を持っていました。
 若い頃に出向した市中病院では、麻酔科の上司や外科の先生から「廣田は一所懸命に仕事をしてくれるから安心して患者さんを任せられる」と信頼していただきました。 さらに、「廣田は集中治療や救急の仕事に向いているよ。麻酔科ではなくて集中治療や救急の分野に進んだら良い」とアドバイスをもらいました。
 その後は救急で有名な日本医科大学で勉強を重ねて、再び金沢大学に戻り、麻酔から集中治療・救急の仕事に徐々にシフトしていきました。 自分を信頼してくださって、自分がやってみたい分野に進む際に背中を後押ししてくれた先輩の存在は大きかったです。感謝しています。

——懸命に仕事を行っている姿勢があったからこそ、信頼や貴重なアドバイスを得られたのでしょうね。 これまでにいろいろな病院で働いて豊かな経験をお持ちの廣田先生から見た砺波総合病院の救急の特徴を教えてください。

 富山県内では富山県立中央病院がER型の救急を目指しています。 厚生連高岡病院では、研修医は救命救急センターのスタッフとともに救急搬送された患者さんを診療するスタイルです。いずれにしても輪番日は非常に忙しい。
 砺波総合病院では、3ヶ月間の研修で救急車・ドクターヘリで搬送された患者さんの診療に加えて、 11時から17時までに受診された患者さんの診療が外来診療の貴重な経験の場になっています。なかには緊急性がない方や軽症の人も含まれていますが、 問診・身体所見・検査オーダー・結果の評価と考察を経て診断に至るまでのプロセスのひとつひとつが、比較的じっくりと経験できます。 研修医の指導を担当する医師も配置されています。また、この時間帯であれば院内の医師にコンサルテーションをしやすい。 善し悪しはともかく、医療圏内唯一の500床を超える病院ということで救急外来受診者数も輪番日・非輪番日にあまり関係なく一定しています。 搬送が重なって忙しいことももちろんありますが、比較的じっくりと患者さんの診療に取り組む時間が取れること、 搬送された患者さんとwalk-inの患者さんの両方の診療を経験できることが特徴と言えるでしょうね。

——救急では診療後のフィードバックも大事ですよね。現場でのフィードバックはもちろんのこと、 救急症例振り返りレクチャーを定期的に開催して代表的な症例の検証を行っています。振り返りは欠かせないですね。 電子カルテを使えば研修医は自分自身で経験症例のその後の転帰も追跡もできますね。

救急

 診療した方のその後の状態を電子カルテで確認する研修医と、行わない研修医がいますが、能動的に研修する姿勢は大事です。 いつも受け身の研修医と積極的な研修医では2年間で大きな差がつく印象がありますね。 冗談半分ではありますが、研修医は研修以外でも、宴会の幹事役をすすんで引き受けるぐらいの積極性を持つべきでしょう。

——廣田先生が当院に赴任された直後と比べて病院内で変化したことはありますか?

 赴任した時期には医師の数が現在よりも少なく指導する姿勢がやや不足しているなと感じました。 現在は若い医師も増えて、初期臨床研修を経験した医師が中堅となって病院全体で屋根瓦の体制ができて来ました。
 救急は、軽症も含めて多くの症例を経験することが大事です。医学的な経験を積むだけではなく、社会勉強をすることにもなります。 患者さん、つまり困っている方の立場になって謙虚に学ばせていただくという姿勢はどれだけ強調してもしすぎることがないほど重要です。

——将来医師となる医学生に対して伝えたいことは?

 自分が東京に行って学んだことをお話ししましょう。救急を受診される方は3つのグループに分かれます。 たとえ診療をしなくとも自然に体調が良くなるグループ、どれだけ救命処置を頑張っても残念ながら助けられないグループ、 そして頑張れば助かるかもしれないグループです。
 最後のグループの人々をどれだけ助けることができるか。助かる人を増やすために何をするべきなのか。 残念ながら助けることができなかった人が、(ありえないことですが)もう一回自分の前に現れたらどんな治療を今度は行うべきなのか。 こういった内容を考察するカンファレンスは、自分にとって非常に有意義でした。
 大事なことは、ただ単に振り返るのではなくて、診療レベルを向上させて助ける人を増やしていくということです。 研修医も主体的に自分で振り返りをすべきです。短期間で多くの科をまわる研修医は、一般的にはお客様になりがちです。 いかにしてお客様気分を減らして研修を行うか。本人にとっても指導する側にとっても重要でしょうね。

——初期研修を行う病院の選択に悩む学生が多いと感じています。

 100点満点の病院はありません。各科の指導体制にはどの病院でも温度差があります。覚えておきましょう。
 研修医となって相性が悪い指導医が自分の担当となった時に、おろおろと右往左往するのではなく、自分で最低これだけは将来のために学ぼうという 目標を設定すること。もちろん、指導医も研修の質を一定以上に保つために、これだけは修得させるというシステムの構築が大事です。

——2015年に富山県にドクターヘリのシステムが導入されました。富山県立中央病院が基地病院となって、砺波への患者搬送も日常的となってきました。 ドクターヘリが導入されてから研修医や診療スタッフの意識に変化を感じますか?

ドクターヘリ

 一度はドクターヘリに同乗してみたい研修医が多いようですね。
 県立中央病院が砺波総合病院の協力型病院として登録されているので、3ヶ月目の研修として最長1ヶ月の研修を県立中央病院で行うことが 基幹型初期研修医では可能になりました。
 ドクターヘリがあることによって劇的な救命が可能な症例は、人口等を考えると年間数症例と予測されますが、 普段から地道に経験を積んで大事なときに真価を発揮することが求められています。
 当院では受け入れに対して良い方向に意識が変わって来たと思います。以前は、救急車が何台来たら以後は断るといった物理的な要素で医療を行っていました。 現在は、引き受けたら専門的な診療ができない状態なので患者にとって不利益になるから断る、あるいはこの状況なら受け入れが可能である、 というように患者の数ではなく診療に要する内容によって判断する方向に変わってきました。現実的には搬送の要請を断っていません。 たとえ診療後に別の病院に搬送する方針となったとしても、一度は患者さんを診察することはすごく重要です。 幸いなことに、研修医が増加して若い上級医や指導医も増えて、HCU・ICUの体制も整ってきたので断らなくても対応できる状況になってきました。

——これまでに多くの研修医と出会って感じたことを最後にどうぞ。

 2年間のうちに「こんな医師になりたい」と尊敬できる先輩に出会えるかどうか。出会えたら一生の財産となります。
 研修を修了して病院を離れる時に、周囲の人々が本心から「また来いよ」と言ってもらえる2年間を送れるかどうか。 心の底からそう言ってもらえたなら、それだけで総合評価として十分ではないでしょうか。

——知識や能力、技能も大事ですが、それ以上に研修医に求められるものは、医師として進歩したいという熱意ですね。 この熱意こそが周囲の人々に「研修医をサポートしよう」という気持ちを保つ原動力となります。どんなに時代が変わってもこの事実はかわらないでしょう。 多くの貴重なお話をうかがいました。ありがとうございました。

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