診療科
外科
乳腺外科
チームの特色
乳房は外から見える臓器であり、また若い人も乳房の病気になることから、内臓の病気とは異なった悩みがあります。
特に乳癌の場合、乳房がなくなる手術が必要なこともあります。多くの方は、できれば乳房がなくなる手術は避けたいと思われるでしょうが、 乳癌は命にかかわる病気であることも事実です。
このようなジレンマの中で、より良い医療を提供するためには、多くの科の協力が必要です。当院は多数の科を擁する総合病院ですから、 この強みを生かして各科の協力のもとに患者さんに最大限の医療を提供できるよう努めています。
具体的には放射線科(診断と治療)、病理診断科(顕微鏡検査)、形成外科などと連携をとり、週1回の話し合い(カンファレンス)を通して治療方針を決定しています。
また乳癌の方、とりわけ再発した方は様々な精神的肉体的苦痛を抱えておられます。そこで、早い時期から緩和ケアチームが関与することにより、少しでも平穏に日々を過ごして頂けるよう配慮しています。
乳房診療では病院の総合力、病院内の連携が大きく影響すると考え努力しています。
診察する主な病気(病名)
- 乳癌
現在、急速に増加している病気です。マンモグラフィーによる乳癌検診などで早期発見の努力が行われていますが、 自分でも自己検診を行うなどして早期発見に努めましょう。 - 乳頭異常分泌
授乳期でもないのに乳頭から分泌物が出るもので、特に赤色、茶色の分泌物の場合、乳癌のこともありますので注意が必要です。 またホルモンが関与した病気で乳頭から乳汁が出続ける場合もあります。 - 乳腺炎、乳腺膿瘍(にゅうせんえん、にゅうせんのうよう)
授乳中の人に起こり易い病気です。乳汁が溜まったり、乳頭から細菌が入ったりして起こります。 まずは抗生物質で治療しますが、膿がたまる(膿瘍)と切開して膿を出すことが必要になります。中年女性にも似たような病気ができることがあります。 - 葉状腫瘍(ようじょうしゅよう)
あとに書いてある線維腺腫と似たようなシコリとして触れます。しかし葉状腫瘍は時に急速に大きくなっていく点が線維腺腫と異なります。 超音波検査や針生検(針を刺してシコリの細胞を採取し顕微鏡で検査)でも分らず、シコリを切除してみてはじめて葉状腫瘍と診断されることもあります。 多くは転移しない良性のシコリですが、シコリを切除してもまた出てくることのある厄介な病気です。
この他にも癌とは異なるシコリが乳房に出てくることがあります。シコリがあるからといって必ずしも癌とは限りませんので、シコリを発見したら早めに検査を受けて下さい。乳房に出来る良性腫瘍(癌ではないシコリ)には以下のようなものがあります。
- 乳腺症(にゅうせんしょう)
エストロゲン(女性ホルモンの一種)の影響で乳腺にできる良性のシコリです。30~40才代に多く、痛みが強くなければ治療は不要です。 - 乳腺嚢胞(にゅうせん のうほう)
液のたまった袋状のものです。良性で、治療は不要です。 - 乳腺炎、乳腺膿瘍(にゅうせんえん、にゅうせんのうよう)
上記参照 - 乳腺線維腺腫(にゅうせん せんいせんしゅ)
15~30才位の人に多く、乳房内のクリッとしたシコリとして触れることが多い。小さいものは治療不要です。 しかし急に大きくなった場合は上に書いた葉状腫瘍との区別が必要で、場合によっては手術をお勧めします。
これまでの乳癌の手術では乳房の手術(全切除または部分切除)に加えて同じ側の腋窩リンパ節をできるだけ除去すること [リンパ節郭清(かくせい)]が行われてきました。
腋窩リンパ節郭清には、腋窩の癌を取り除くという治療的な目的のほかに、取り出したリンパ節を顕微鏡で調べ、 リンパ節転移の有無によって手術後の薬物療法(抗癌剤治療やホルモン療法)の方針を決めるという検査的な目的もあります。
しかし腋窩リンパ節郭清により、術後の腕の浮腫(むくみ)や丹毒(感染を起こして腕が赤く腫れる)などの後遺症が起こることがあります。
最近の乳癌の研究から、「腋窩リンパ節郭清により、腋窩での乳癌再発を抑えることはあっても、生存率は向上しない」ことが分りました。 このことから、「腋窩リンパ節に転移の無いことが分れば、腋窩リンパ節郭清をしなくてもよいのではないか」、と考えられるようになりました。
当院のデータでは、顕微鏡検査で腋窩リンパ節に転移を認めたのは、大きさが2㎝以下の乳癌では約3割、2㎝を超え5㎝以下の乳癌では約4割でした。 すなわち乳癌の半数以上の方には腋窩リンパ節転移が無いのです。
しかし手術前の診察や画像検査(CTや超音波検査など)では顕微鏡レベルのリンパ節転移の有無は分りません。 そこで考え出されたのが「センチネルリンパ節生検」です。
「センチネルリンパ節」とは乳房から最初にリンパ流が入るリンパ節のことで、乳癌の最初のリンパ節転移はこのリンパ節に起こり、 ここから他のリンパ節に転移していくと考えられています。そこで「センチネルリンパ節」を顕微鏡で調べ、 これに転移がなければ他のリンパ節に転移のある可能性は低く、腋窩リンパ節郭清を省略してもよいというのが「センチネルリンパ節生検」の考えです。
「センチネルリンパ節生検」は腋窩リンパ節郭清より摘出するリンパ節が少ないので、腋窩への侵襲(負担)が少なくてすみます。 すなわち手術後の腕の浮腫(むくみ)や丹毒(たんどく)などの可能性は低くなります。
なおアイソトープの出す放射線は人体には影響のない微量であり、厚生労働省が認可した検査薬です。 インジゴカルミンは腎臓の検査のために日常診療に使われている薬品です。